福間香奈女流六冠、記者会見(冒頭発言 書き起こし)
代理人・松田真紀弁護士
皆様のお忙しい中、本当に大変ありがとうございます。女流棋士・福間香奈さんの代理人、代表弁護士の松田真紀です。本日はどうぞよろしくお願いします。
私たちは福間香奈さんの代理人として日本将棋連盟に対し、妊娠・出産に関する、現在運用されている女流棋士タイトル戦の規定、および現在検討されているという、妊娠・出産による対局不参加のときの翌期の取り扱いについての要望、および提案書を昨日(12月9日)付でお送りいたしました。
ご説明させていただきますと、現在のタイトル制の規定なんですけれども。いまタイトル戦というのは、女流棋士は8個のタイトルがあります。タイトル戦っていうのは、王座を決める決勝戦っていうようなものだとご理解いただければいいかと思いますが、そのタイトル戦の期間に、妊娠・出産が重なる場合について「産前6週、産後8週は、対局者を変更する」というふうな規定になっています。つまりタイトル戦には、妊娠・出産が産前6週、産後8週であれば、タイトルに出られないと。
ところが現在のタイトル戦のスケジュールは、年間通してタイトル戦を順次、組まれていることから、タイトル戦とタイトル戦の間に、先ほど言った産前6週、産後8週、足して14週が空いている期間というのはなく、この規定のままでは妊娠した女流棋士は、一つないし複数のタイトル戦に出ることが難しくなる。つまりタイトル戦を優先させるとなると、妊娠を躊躇せざるをえないというような状況にあります。
福間さんは現在、できれば第2子を望んでいる、ということなんですけれども。こうした規定によって、子供を産むか、タイトル戦を優先させるか。子を産むかタイトル戦か、という二者択一を迫られている状況です。
本日出席している弁護士は5人になっていますが、われわれ大阪の弁護士会の女性弁護士団、8人ですね。福間香奈弁護団で、本規定について、翌期のあり方についてなど、いろいろ検討させていただきました。
子を産むか、タイトル戦かと、二者択一を迫るような状況に女流棋士を追い込む規定は、それ自体、女性のリプロダクティブ・ライツ、つまり、子を持つか持たないか、いつ産むのか、そういう生殖に関する自己決定権を大きく制約している。人権上、極めて重大な問題を含んでいるというふうにわれわれは考えております。
われわれとしてはこのような状況に女流棋士を追い込んでいる規定は、まず運用停止が必要であると。そして、妊娠・出産する女流棋士の環境整備が急務であるというふうにわれわれは考えております。
福間さんの現在の苦しい状況について相談を受けたわれわれは、福間さんを代理して、この規定の運用をいますぐ止(と)めて欲しいということと、妊娠・出産を考える女流棋士に配慮した規程の策定をしてほしいということを要望し、またいくつかのご提案というものもさせていただきました。
一方福間さんにとって、女流棋士として、日本将棋連盟に妊娠・出産に関する規定に要望や提案をすること、そうして記者会見を開くということは、いろんな思い、さまざまな思いがめぐり、非常に勇気がいることでした。
しかしながら、こうして一当事者として自分自身の現状を伝えることは、問題提起につながり、多くの人に関心を持ってもらい、妊娠・出産に関する規定のあり方についての議論が活発化し、実りある議論がされることを切(せつ)に希望して、この記者会見に福間さんはいどむことにしました。
そして女流棋士の今後の発展、そして、ひいては将棋界全体の発展というのを、福間さんは強く望んでおります。これから福間さんから、今回の要望書、および、ご提案書を出すに至った経緯。現在運用されている女流棋士の妊娠・出産に関する規定や、現在検討されている対局不参加となった場合の翌期の扱いなどについての要望・提案について。そして、これからの将棋界に対する福間さんの思いについて、福間さん本人から説明させていただこうと思っております。
ところが、ちょっと皆さんにお伝えしておきたいんですが、福間さんですね。感染症やウイルス感染ではないということは、病院に行っていただいて確認させていただいてるんですが。ここ数日、ちょっと喉の調子がおわるくですね。聞き取りにくい、かもしれません。しかし福間さんご自身の声で、皆さまにお話したいということですので。ちょっと聞き取りにくい部分については、どうかご容赦のほど、よろしくお願いしたいと思います。
福間香奈女流六冠
本日はお忙しい中、お集まりいただき、誠にありがとうございます。日頃より将棋界にご尽力いただいております、関係者の皆さま、ファンの皆さまには、心より感謝申し上げます。
今回、要望書兼ご提案書を連盟宛に提出いたしましたのは、妊娠・出産は私だけではなく、女流棋士皆(みな)に起こり得ることなので、今後のために、自分が感じたこと、思ったことをお伝えさせていただけたらと思いました。
皆さまにも関心を持っていただき、一緒に考えていただければ、大変助かります。よろしくお願いいたします。
女流棋界は昨年(2024年)50周年を迎え、私が女流棋士になった当初(2004年)は、4大タイトル棋戦でしたが、現在に至り、二十年間のあいだに4タイトル増え、今では8大タイトル棋戦になっています。
本当にスポンサーの皆さま、ファンの皆さまには、感謝してもしきれません。この場をお借りして、深く感謝申し上げます。
そして昨年私は、妊娠・出産を経験することになりましたが、妊婦が複数のタイトル戦をたたかうという初めてのケースとなりました。その昨年の私の状況について、お話しします。
昨年4月に妊娠していることがわかり、12月に出産予定とわかりましたが、流産経験もあったことで、安定期に入ってから連盟にお伝えしようか悩みました。
しかしながら、それから順次、年内にタイトル戦が多数控えていることもあったので、5月初めに、連盟に、妊娠をしていること、12月が出産予定であることをお伝えしました。
昨年春から夏にかけておこなわれた女流王位戦(五番勝負)、清麗戦(五番勝負)は、つわりもひどく、現場での状況を察知された方もいたようですが、皆さまの温かいお気遣いにより、無事たたかい抜くことができました。
春から夏につわりがひどくて、動けるような状況ではなかったのですが、連盟にはできるかぎり状況報告や、タイトル戦に向かう進行中の棋戦についての報告をおこなっていました。このとき、妊娠・出産に関する規定がなかったので、着物着用や、畳での対局についてのことも、さまざま、不安だったからです。
7月には白玲戦(七番勝負)の挑戦が決まったこともあり、いよいよ、女流王将戦(三番勝負)も挑戦者になったときの過密日程に、非常に不安になり、7月には対面での話し合いの場を設けてもらうことをお願いしました。
そして8月に連盟と協議の場が設けられ、そこで「タイトル戦延期はできないか」そして「ギリギリまでタイトル戦をたたかいたい」とお伝えしました。
連盟の回答としては「現時点でタイトル戦における妊娠・出産規定がなく、方針も固まっていないので、各スポンサーに話し合いや交渉ができない」と回答されました。
そのあとも「あくまでもタイトル戦をたたかう意思がある」と連盟と協議を重ねましたが、体調を崩してしまい、弁護士の先生にお願いして、代理人となって、連盟との対応を依頼しました。
このときの代理人弁護士と、連盟および主催者さま、協賛者さまとの、大変なご尽力やご理解、ご協力のもと、女流王座戦(五番勝負)、倉敷藤花戦(三番勝負)、女流名人戦(五番勝負)の各タイトル戦の日程変更をしていただきました。
このときは、日程が差し迫っているにも関わらず、日程変更にご尽力していただきました各方面の関係者の皆さまには、心から深く感謝申し上げます。本当にありがとうございました。
そして、一方でその後、妊娠による体調不良が現実となって、長距離移動も困難な状態になり、不戦敗となった対局もありました。
私にとって将棋は全てであり、何にも代えがたいことであります。不戦敗の裁定は、本来なら素直に喜ばしいはずの妊娠を素直に喜べず、当時はどうしようもなく、苦しかったです。
昨年12月、連盟に妊娠・出産の規定を策定するということで意見を求められたので、先の代理人弁護士を通じ、要望書を提出しました。先述のような経験もありましたので、担当の窓口の明確化や、対局環境や日程への配慮等を要望しました。
そのあと、今年(2025年)の春にタイトル戦についての規定が連盟から送られてきました。そこには、昨年末に出した要望は反映されていませんでした。
特に「産前6週、産後8週、タイトル戦にかかると、対局者を変更する」との規定に、正直、あ然としました。翌期の取り扱いによっては、事実上の不戦敗となるからです。
すごく驚いたので「例えば産後8週を繰り上げて対局にいどむことはできないんでしょうか」と連盟に問い合わせしました。この連盟の回答は「早めに復帰できない」というものでした。
そして、現状示されている翌期の取り扱いについて、不安と、本当に事実上の不戦敗であり、第2子を持つことは無理だ、と絶望的な気持ちになりました。
対局を続け、そして育児をしながら、規定の再考を求める活動にも限界があり、弁護士の先生に改めて相談したという経緯です。
このままの規定であれば、いまの置かれている女流棋士の使命をまっとうしようと思えば、妊娠すること自体を躊躇してしまい、2人目の妊娠はあきらめなければならないという思いで、非常に苦しい状況です。
また、私自身のことのみならず、女流棋士がこれからますます活躍して、この将棋界を盛り上げてほしい。明るい将棋界になってほしいと望んでいるのですが、現状の規定では、未来ある少女や、女流棋士が上を目指して、複数のタイトルを獲得したとしても、妊娠をしてしまったら、タイトルか出産かを選択しなければならず、どちらか一方をあきらめなければいけない状況であるので、将棋界の未来に強い不安があります。
この自分自身の現状を伝えることで、多くの方々に関心を持ってもらい、妊娠・出産に対する規定のあり方についての議論が活性化し、実りある議論がされることを切(せつ)に希望して、この記者会見にいどみました。
規定についての要望、ご提案ですが、まず、現行の規定をストップしていただきたいです。そして、妊娠を社会通念上、相当の事由と認めていただき、不戦敗としないでいただきたいです。
妊娠したとしても、地位が保障され、安心して妊娠・出産にいどめる環境を作っていただきたいです。
例としましては、暫定王者制度を設けていただきまして、その期のみ、一般棋戦あつかいとして、優勝者を決め、妊娠した者は翌期から通常通り復帰するというものです。
妊娠か、タイトルか。どちらか選択する制度ではなく、両方が目指せる世界にさせていただきたいと希望しております。
そして、私はこれまでも、本当に多くの関係者の皆さまに、そしてファンの皆さまに支えていただきました。女流棋界も50周年を昨年迎えましたが、皆様のご尽力あって、ここまでやってこられたと思っております。本当に関係者の皆さま、ファンの皆さまには改めまして感謝申し上げます。ありがとうございます。
また妊娠・出産するにあたり、ご配慮いただきました、女流棋戦関係者の皆さま、主催者の皆さま、ご協賛者の皆さま、そしてタイトル戦各地で会場をご提供していただいております関係者の皆さま、そのほか多くの皆さまに心から深く感謝申し上げます。本当にありがとうございます。
これからも引き続き、将棋界のさらなる発展、また女流棋界がもっと、よりよくなるように、努めてまいりたいと思います。
ここにお集まりの記者の皆さまにも、どうかこの問題に真剣に取り組んでいただきたく思っております。
これからも引き続きよろしくお願いいたします。以上です。
(以下、質疑応答)
※会見終了後、日本将棋連盟からは「本日の福間女流六冠の会見を受けまして」という一文が発表された。
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